2010年→2011年、ビルマ、バガン、その2。

バガンを1日自転車で走りまわったその翌日は、前日出会った日本在住のアメリカ人のお姉さんと一緒に車をシェアし、バガン近郊のサレー&ポッパ山に向かう。朝の8時に集合し、ボロボロのバンで出発。ここは、というかこの国は、とにかく道が悪い。辛うじて舗装はされている道路でも当然のように表面はボコボコであり、雨季には川の底になるという舗装されていない道でも突っ走る。そんな数時間。いやー、気分が悪くなったよ。めったに車酔いはしないはずなんだけれども。

まずはサレーの街。いや、街というか小ぢんまりとした寺院がしかないところで、点在する謎のオブジェは、お姉さんが「仏教ワンダーランド」と称していた。暑かったことと気持ち悪かったこととネコがたくさんいたことしか覚えていない。

2時間程サレーに滞在した後、ポッパ山に向かい、昼飯休憩を含んで数時間。ポッパ山は、ビルマ土着のアミニズム信仰の聖地である。山々の間に突き出した岩山は、精霊「ナッ神」を祀っているのだが、ナッ神の像は、昼からミナミで呑んだくれているおっさん(まあ、私のことであるが。)そのものにしか見えない。参拝客は引切りなしに訪れるが、白人天国となっていたバガンと比べて露骨な外国人観光客の数は明らかに減った。凶暴な猿から必死に荷物を守りながら険しい山道を登る。参拝道のところどころにナッ神と見られる像が乱立する。頂上に近くなり視界が開ければ、これは、まるで空中に浮いているような!



そして、私がこの日ずっと気持ち悪かったのは、原因は車酔いではなく、本気で体調が悪かったのであった。気持ちが悪いまま、歩いているのもやっとの状態で岩山を登って、さらに下り、バガンへと帰る車の中では後部座席に横になってぐったりと寝込んでいた。バガンに戻り、宿の近所の食堂で晩飯を待っている途中で思いっ切り吐いてしまう。それでも、何かは食わねばならぬという義務感から、あっさりした海老スープを無理矢理胃の中に押し込み、一人で宿に戻って寝た。ベッドの上で悪寒に苦しんでいる最中、嫁はアメリカ人のお姉さんと2人でビルマウイスキーをたらふく飲んでいたとのことである。

2010年→2011年、ビルマ、バガン、その1。

 2010年12月24日のお昼前の出来事である。
 ビルマへの出発は25日の夜0時過ぎの飛行機の、はずだった。当時は、未だかつて体験したことのない忙しさで、数カ月ほとんど休みなく働き続け、ようやくゴールが見えてきたところだった。今日はもうちょっと仕事をして、馴染みの居酒屋で年末の挨拶をして、明日ゆっくり準備をしよう、とか呑気なことを考えている。
 たまたま用事があったので、先輩の弁理士と電話する。夕方からお客さんと打ち合わせがあるようだったので、私も参加しますよと言う。「イドちゃんビルマに行くんじゃなかったっけ?」「何ゆうてるんですか、明日からですよ」「あれ、そうやったかなあ、ほな来てもらおうか」という会話を交わしながら、少しだけ不安がよぎったのでパソコンに入っているE-ticketを開く。25日0時30分発、と確かに書いてある。ん、25日0時30分?今晩やないかっ。
 「・・・もしもーし、もしもーし!」数秒の放心状態の後、電話の向こうの声で我に返った。「やっぱり今晩出発でした!で、で、で、電話切ります!」と一方的に電話を切る。何も準備をしていない。そして出発は数時間後。慌てる。
 とりあえず、家でグウスカ寝ていた嫁を電話で叩き起こし、年内期限の請求書を持って事務所を飛び出し、振込だけすませて家に飛んで帰り、押入れからバックパックを引っ張り出して、ええとLonley Planetと、カメラの充電と、ああお金を下ろしてくるのを忘れてた、と錯乱状態のまま、なんとか準備を終え、バタバタと関空へ向かい、タイ航空に乗り込んだ。

 バンコクで乗り換えた後は1時間程でヤンゴンに着く。予約していた国内線のチケットを空港で受け取り、数時間程待って一気に仏教遺跡が有名な街、バガンまで飛ぶ。バガンに着いた頃はすっかり日も傾いていて、安宿を見つけてそのままぶっ倒れた。激動の1日が終わった。
 バガンは、だだっ広い平野に、ひたすらにパゴダ(仏塔)が乱立する遺跡の街である。翌日、宿で自転車を借りてグルッと回った。パゴダはそれぞれ個性があり、現在進行形の信仰を集めている。冬とはいえ日差しはキツいし、有名な寺院は土産物売りがうるさい。人気のない仏塔でのんびりと過ごすのがよい。

 バガンの夕日は無数のパゴダが赤く照らされる幻想的な光景で有名だが、夕日が綺麗と評判のシュエサンドパゴダは、「(観光客で)スシヅメヨ~」と同じ宿に泊まっていた綺麗なアメリカ人のお姉さん(倉敷市在住)が教えてくれたので行くのをやめた。夕日の時間にたまたまフラリと立ち寄った名前もない仏塔の前で子供たちと遊んでいると、子供たちが「来い来い」と言うので付いて行く。もちろん、何と言っているかはわからないのだが。仏塔ですらない謎の立方体の建物の中に入り、真っ暗な中、狭い階段を登って屋上に至れば、夕焼けに照らされたバガンが一望できる。周囲のパゴダの数はたいして多くもないから迫力がある訳ではないが、何より五月蝿い観光客はもちろん皆無で、ここにいるのは我らと子供たちだけ。心行くまで遊んだ。このビルマへの旅で最高の瞬間。

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