今度は北へ(この夏の記録)

 汗と埃にまみれながら九州を自転車で縦断するその数日前に、友人の住む京都府綾部市に行ってきた。1泊2日というか、0泊2日の強行軍。目的はJR綾部駅前のクラブでDJをすること。学生のときは毎週末のようにミナミのクラブを渡り歩いていたもので、いや、そもそも、DJというのは曲をかけながら云々、という話はここではしない。
 綾部は、京都市内からJRで1時間半ほど北に走ったところ、福知山と舞鶴に隣り合った小さな地方都市である。たいてい、世界中のどんな街でも若い音楽好きな奴等が集まる場所があって、敢えて小さな街でふんばっていることに都会の店とは別種の熱を感じる。もともと田舎者の私は、痛い痛い高校生時代に入り浸っていた小さなライブハウスや個人経営の輸入盤屋を思い出してしまうので、つい。久しぶりに地元に帰ったときには、両方ともなくなってはいたけれど。

 クラブが開くまで少しだけ時間があったので、駅前をぷらぷら歩いてみる。初めて歩く街は嗅覚が頼りだが、駅前の大通りを渡った後で小さな路地に入れば、大抵いいことがある。この日はその小さな路地で地蔵盆をやっていた。たこ焼きやおでんや焼きそばを売っていって、ビール箱の上に並べられたコンパネの上に腰掛けて食す。もちろんビールも売っているが、すっかり顔が赤くなったお父さんと仲良くなれば、これに関しては自動的にグラスに注いでいただける。古いラジカセから流れる少し音の割れたお囃子に乗って、お父さんとお母さんが道の真ん中で踊っている。綾部でも路上解放の瞬間が。わいわい騒ぎながら、その輪に加わる。店仕舞いの寸前だったので、大量のたこ焼きを持ち帰らされることになった。明らかな他所者の我等を快く受け入れてくれた街の人々に感謝。こんな人たちに巡り会えるから、旅はやめられないのである。

 すっかり心地よくなって駅前のクラブに向かう。踊るところとお酒飲んでゆっくりするところが別れていて、居心地がよい。日付が変わる頃にはだんだんと人が増えてきて、馬鹿な話も真面目な話もしながら酒が進み、自分がDJする予定の深夜2時を回れば、誰が用意したかテキーラが登場し、たまたまその場に居合わせた皆で乾杯し・・・

 ・・・ん、さて。その後一切の記憶がなく、気付いたら大阪の自宅で倒れていて猛烈な二日酔いに苦しめられていた訳だが、まあ、楽しかったはずなので、これでいいことにしてよろしいでしょうか。覚えていないので、これ以上書くことがない。この夏の最高且つ最低の思い出。